難波真実「ひとこと便り」

三浦綾子記念文学館(北海道旭川市)事務局長による、備忘録を兼ねた情報発信です

ひとこと便り #11

 先日、梨木香歩さんの『村田エフェンディ滞土録』(角川文庫)を読みました。『家守綺譚』(新潮文庫)とつながっているところがあって、両方読んだ人は思わず嬉しくなってしまいます。

 それはさておき、この作品ではトルコのけだるい暑さとエスニックな香りまでまとわりつきそうな世界が広がり、主人公の村田を取り巻く多種多様な人々がそれぞれの日常を歩みながら時間が流れ、時折、世界の情勢が差し挟まれます。生まれも国籍も地位も異なる人々がいっしょに暮らし、それぞれの流儀や思いが交錯し、折り合い、お互いを知り合います。ほほえましいエピソードだったり、不思議な出来事だったりが織りなされるのですが、最終盤になって状況は大きく変わります。

 革命、戦争。村田は日本に帰国します。そして、共に日々を過ごした仲間達の消息が届き……。

 1羽のが物語の軸をつないでいく役目を果たすのですが、飼い主が戦争の渦に巻き込まれることで鸚鵡自身も困難に遭います。その姿に胸が締め付けられました。というよりは、その世界を覆う黒い空気に苦しさを覚えたのかもしれません。“生きる”とはどういうことなのだろう、と考えさせられる作品でした。

 三浦綾子さんの作品に共通するのですが、命とは“関係性”なのだとあらためて思います。与えられた生き方を大事にしていきたいものですね。

 皆さまの益々のご祝福とご活躍を祈念しつつ

では、また! (難波真実)