難波真実「ひとこと便り」

三浦綾子記念文学館(北海道旭川市)事務局長による、備忘録を兼ねた情報発信です

三浦綾子の“ライトノベル”? 『雨はあした晴れるだろう』知られてなさそうな短編を発掘。シューベルトの「冬の旅」登場。

f:id:mnamba:20151124093410j:plain

三浦綾子 電子全集 雨はあした晴れるだろう | 小学館

 

1日に1タイトルのペースで三浦綾子作品を読んでいますが、昨夜は短編『雨はあした晴れるだろう』。この本(現在、電子書籍のみ)には、あと2つの短編が収録されています。

この作品、綾子さんには申し訳ないですが、おそらくほとんど知られていないだろうと思います。そもそも、“幻の作品”として20年ぶりに発見されて刊行されたもので、北海道新聞社が1998年に単行本として出版。そして2000年に角川で文庫化されたようですね。

もともとは、小学館の「別冊女学生の友」という雑誌での連載。なるほど。知らずに読んで、「へえ〜〜〜、綾子さんもこういうのを書いてたんだ」と驚いた私は三浦ファン失格ですね。苦笑 1966年の連載といいますから、およそ50年前。綾子さんにとってデビュー間もない時期です。50年も前の若い人向けの雑誌の状況なんていうのは、私にはまったく分かりませんが、勝手な推測ですが、おそらく反響を呼んだのではないでしょかね。『氷点』の作家がジュニア向けに!というのは相当衝撃的だったのではないかと想像します。

9月の記事で、綾子さんのエッセイ『ひかりと愛といのち』にシューベルトの「冬の旅」が登場したことを書きましたが、この『雨はあした晴れるだろう』にも登場。かなり早い時期にこのエピソードを盛り込んでいたんですね。

www.m-namba.net

私はすでに40過ぎのオッサンになってしまっているので、10代の子たちの感覚はまったく分かりませんが、どうでしょうね、今の子たちにも十分通用するような気がしますけどね。50年前の作品なので、ところどころ時代を思わせる単語が出てきますが(たとえば、キスではなく、接吻など)、それらを除けば、さらりとしていて、それでいて読み応えのある内容だと思えます。『氷点』の作家らしい、卓越した心理描写が、若い人に読みやすい文体で展開されています。私の感覚では、『氷点』というより、どちらかといえば『道ありき』に通じるような気がしますが。

今でこそ、ラノベ全盛で、それ以上にコミックも溢れかえって、覚えきれないほどのストーリーが世に送り出されているわけですが、50年も前に、このような作品が綾子さんの手によって生み出されていたことに驚きと感動を覚えました。

士別は、雪です。

では、また! 難波真実でした。